口腔ケアで免疫力アップ!

口腔ケアで免疫力アップ!

 

神奈川歯科大学副学長の槻木恵一氏が執筆され、

日本歯科医師会ホームページに掲載されています。

 

 人の免疫は、害を与える微生物などに対して働き、病気を軽く済ませてくれたり、発症を未然に防いでくれたりします。この病気の発症は、微生物の悪さをする力と免疫力のバランスが崩れた時に生じるのです。このバランスを免疫力優位にしておく必要があります。その方法の1つが、口腔ケアです。口の中には、細菌が沢山いるのをご存知ですか? 常在細菌といって、体を守る働きを示すものもありますが、悪さをする細菌もいます。この悪さをする細菌やウイルスを減らすことが大切です。細菌の塊であるプラークは、歯磨きをしないと落とすことはできません。口の中には、もう1つ細菌の塊があります。それは舌の表面についた舌苔です。これらの細菌を口腔ケアにより減らすことで、口腔の免疫が十分に働くことができるようになるのです。口腔の免疫は、IgA(※)という抗体が働き、害を及ぼす微生物を排除してくれる粘膜免疫というシステムで実行されています。しかし、このIgAも口の中が汚れていれば、敵が多すぎて、防衛が難しくなってしまうのです。nico201806

「nico」2018年6月号「特集:唾液のチカラ」槻木恵一(クインテッセンス出版刊)より イラスト:有村綾

新型コロナウイルス感染症が、世界中で蔓延し多くの人を苦しめています。最先端の科学によりワクチンや治療薬の開発が進んでいますが、まだ完成していません。そして、新型だけあって、わからないことも多数あります。このような時、大切なことは、これまでの経験を総動員して、感染しないために良いと考えられることは、何でも行うということです。マスクも初めは海外では推奨されていませんでしたが、今は誰でも必要なことを知っています。歯磨きなどの口腔ケアは、インフルエンザへの感染リスクを下げることがわかってます。この経験は大切であり、新型コロナウイルス感染症対策として、試す価値は十分あります。いま新型コロナウイルス感染症に対しても口腔ケアが大切だという直接的な証拠を多くの研究者が探していますが、もう少し待つ必要があります。

もう一つ大切なことは、歯周病を放置し重症化してしまうと、歯周ポケットという深い溝ができてしまい、プラークや舌苔のように細菌の温床ができてしまいます。歯周ポケット形成の原因となる歯周病原細菌は、さまざまな分解酵素を持ち、それを口腔内にまき散らし、ウイルス感染を進めてしまうことも分かってきました。

いま歯科医院は、高度な感染防止対策を行い、皆さんを受け入れる準備を整えています。ぜひ、口腔ケアの大切さを理解していただき、歯科疾患を進めないために歯科医院でのチェックも忘れないでください。

※本記事はIgAと新型コロナウイルスの関係性について直接説明しているものではありません。

槻木恵一氏(神奈川歯科大学副学長)

略歴

1967年東京生まれ。1993年神奈川歯科大学歯学部卒業。1997年同大学大学院歯学研究科修了。歯学博士。同大助手、特任講師、助教授を経て2007年より教授。2013年より同大学大学院歯学研究科長。2014年より同大学副学長。専門分野は唾液腺健康医学・環境病理学。プレバイオティクスが唾液中IgAを増加し、そのメカニズムとして腸管内で短鎖脂肪酸が重要な役割を果たすことを明らかにし「腸―唾液腺相関」を発見。著書に『がん患者さんの口腔ケアを始めましょう』(学建書院)などがある。